えんきょりれんあい。

 

太陽が東の地面から顔を出してきたちょうどその頃、オイラは腫れて重い瞼を必死に開けていた。

昨日のあれから、何度しゃくりあげていただろう。

これは涙なのか、と疑ってしまうほど、こぼれ落ちていった雫。

そうやって確かに存在するものさえ信じられないから、昨日のアンナの言葉も理解できない。

何度も嘘だと、からかってるんじゃないかと言っても、返ってくるのは一向に、「現実」という二文字だけ。

アンナは、ただただ平然と自分の状況を話し、オイラは身体の中が空洞になってしまったかのようになっていて、

表の器だけが頷いていた。

聞きたくなくて、認められないでいて・・・・

 

静かに時だけが経っていく。

眠りに堕ちまいと必死だった瞼が疲れて閉じていく。

起きたら、すべてが夢であることを望みながら・・・・・

 

 

「・・・・・・ようっ・・・・・・・・・葉っ!!!いつまで寝てんのよ!学校、間に合わなくなるでしょ?!」

 

ぼんやりした意識の中、ゆっくりと目を開けると、眉間にしわが寄るアンナが映った。

目をこすりながら、けだるい身体を起こす。

 

 

 

いつもの朝。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・なんて顔してんのよ・・・・・・目、腫れてるじゃない。」

 

 

 

 

いつものアンナ。

 

 

 

 

 

「ったく、何でもいいから、さっさと用意して頂戴。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうじゃないことは、嫌でも理解している。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたが遅いと、あたしまで巻き沿いになるんだかっ・・・・!!!」

 

アンナの細い肩を掴んで、布団へと押し倒した。

視界が逆転したアンナは、何事かと困惑した顔でいた気がするが、今のオイラの目には、留まりもしなかった。

強く強く抱きしめ、乱暴なキスをする。

せっかく着替えたアンナの制服をいとも簡単に脱がせ、貪るように胸へと唇を寄せた。

上がる息も、上気した頬も、名前を呼ぶ声も、いつもなら、あんなに愛しく思えるのに。

何故だろう。

今はただただ、この塞がらない何かのせいで、そんな気持ち、一つも湧いてこない。

愛している想いは、変わらないはずなのに。

この身体は、愛とは別の衝動で動いている。

 

「・・・・・っく・・・・・・・・・・アン・・・・・・・・ナっ・・・・・・・・・・」

 

いつもと変わらず温かくて、やわらかい身体を力強く抱きしめる。

涙がまたあふれ出て、アンナの肩を濡らすと、そっとか細い腕が背中に回って、抱きしめ返される。

それが、何だか無性にツラくて、悲しくて、儚くて。

嗚咽が止まらない。

このすべてが近い内に、目に見える範囲で消えていくなんて・・・・・・・・・

 

ここにいるアンナを確かめる為に抱いたのに、失ってしまう事ばかりが胸へと刻み込まれた。

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま。」

 

あの事実を聞いてから、数日が経った。

もう、あんな衝動でアンナを抱きたくないから、何事もなかったように淡々と過ごしている。

だが、割り切るにはまだ時間が浅くて、アンナを出来るだけ避けていた。

本当はこのままじゃいけないことも、間違っている事も分かっている。

分かっているけど・・・・・・・・・

 

心がついてこないことが、恨みがましい。

 

今日も炎の食卓は静かに終わった。

皿を下げて、キレイに洗って、風呂に入れば、自室へ戻るのみ。

この気持ちから抜け出せない苛立ちは、どんどん胸の奥に積もっていく。

 

階段へと続く廊下を歩いていくと、襖の開いた居間にアンナの後姿が見えた。

今にでも消えてしまいそうな心許ない背中を見ていると、目頭が熱くなって、慌てて抑える。

が、立ち尽くした廊下に、ぽつりと涙が落ちた。

固まってしまった身体に力を入れて、早くここから立ち去りたい。

涙を拭い、踵を返そうとした瞬間。

 

「あんた。いつまでそうやって逃げるの?」

 

ゆっくりと振り向いたアンナが、こちらを見つめた。

オイラは、涙が幾筋も流れる顔のまま、久しぶりにアンナの顔をまともに見る。

 

 

 

 

 

 

「別にあんたがそんな顔して、毎日過ごさなくてもいいじゃない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も変わらない表情が悔しくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬのは、あたしなんだから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、自分が情けなくて。

 

 

 

気が付くと足はアンナの元へと駆け出し、そのままの勢いで抱きしめた。

背骨が軋んでしまうくらいの力に、苦しそうな声を漏らされたが、その腕を緩める事はなかった。

どうしようもない、所在のない感情は消えることなく、この身に降りそそいで、すべてを冷やしてしまいそうだ。

 

「・・・・・・・・そんなこと・・・っ・・・・・・・・・・・・・・・言わんでくれよっ・・・・・・・・」

 

やっとの思いでついて出た言葉に返答はなく、情けなく大泣きするその様を宥めるように、か細い腕が背中に回されるだけだった。

そうして伝わるアンナのぬくもりは、突き刺さっている悲しい痛みまでも包んでしまう。

 

 

 

 

 

 

赤い光が窓をすり抜けて、くたびれた畳を照らす。

夕焼け色に染まった自室には、座り込んでしまっているオイラ一人だけ。

以前より散らかっている物を片付けようとしていたが、手が止まっていたのだ。

 

ふと我に返ると、ここにこうしている事でさえ虚しくなる。

やり場のない気持ちで胸を詰まらせるだけの毎日。

刻一刻、アンナと過ごす時間は過ぎていく。

 

『これでいいのか。』

『良いわけがない。』

 

解りきっている答えが頭に響く。

アンナを感情のままに抱いても、確かな現実が見えるだけ。

満たされなくて、それが次の衝動へと繋がる。

 

・・・・・・・・・・・・オイラにとって、アンナはすべて。

愛するこの気持ちは計り知れなくて、溢れ出す思い出は愛しすぎる。

出逢った時、恋に堕ちてしまった瞬間から、オイラはアンナから離れられなくなっていたんだ。

どんな運命も越えて、傍でずっと、倖せに思える日々を作っていくと、決めていたのに・・・・・・・・・

 

 

 

オイラは、今あるどうしようもない現実にばかり気を取られて、アンナを見てなかった・・・・?

 

あの腕は?

 

震えていたんじゃねぇか?

 

 

 

 

 

なんで、

 

なんで、

 

こんな遠回りをしなきゃ

 

傷つけなきゃ、

 

 

 

 

 

大切な事に気がつかないのだろう・・・・・・・

 

 

 

 

 

取り戻したくても、戻せない時間が今は憎くて、悔しくて。

それは自身に向けられる怒り、そして、虚しさ、情けなさ。

枯れる事を知らない涙の粒が、夕射しに照らされながら落ちていく。

 

もう、傍にいる資格なんてないかもしれんが、また二人で残りの未来を歩んでいきたい。

倖せに思える日々を作っていきたい。

 

 

 

 

アンナ、

 

 

アンナ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

うまく愛せなくて、すまん。

 

 

涙を拭ったら、もう一度向かい合わせてくれ。

初めて出逢った時みたいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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