えんきょりれんあい。

 

「あれ?アンナまだ、それ飲むんか?」

 

炎の夜。

いつものように畳に寝転がっているオイラの横で、アンナは水の入ったコップを片手に錠剤を袋から出している。

先週まで風邪をひいていたアンナだったが、その症状もほとんどよくなり、薬も必要ないと思ったが・・・

 

「これで最後よ。まだ少し喉が痛いから、明日病院に寄るわ。あんた、先に帰ってて。」

「おぉ、わかった。」

 

アンナは一粒、一粒、薬を口に入れて飲み込む。

一つずつ、というのが可愛くて、全部飲み込んだ所で、オイラは起き上がり、優しく髪を撫でながら顔を近づけていく。

何をするか感じ取ったアンナは、それをさせまいと抵抗を見せるが、無駄に終わり、あっさりと唇は奪われてしまう。

何度も角度を変えては重ね、息つくヒマすら与えない。

 

「・・・・・んっ・・・・・・・・あたし、これでもまだ、病み上がりなんだけど。」

「喉以外、治ったんだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うつっても知らないから。」

「そんなヤワじゃねぇよ。」

 

もう一度キスをして、ゆっくりと押し倒す。

久しぶりに触るアンナの温かくて、柔らかい肌はとても心地良くて、抱きしめてるだけで満たされてしまいそうだ。

 

幼い頃とは違い、手を伸ばせばすぐに触れられるアンナ。

オイラの隣にいるアンナ。

きっとこれ以上のものなんてない。

そう、これが倖せだ。

オイラの最大級の倖せだ。

 

ゆったりと流れるこの時間は、未来の・・・・・・・・本当の夫婦になった時まで変わらず続いていく気がする。

先のことは分かんねぇけど、そうであってほしい。

 

 

「葉。さっきから、何ぼーっとしてるのよ。」

 

畳の上で、オイラのシャツだけ羽織ったアンナが口を開く。

口調は刺々しいが、急にこんな事させちまった割りに、機嫌はよく見える。

にんまりと微笑むと、アンナの頬へと手を伸ばし、撫でてやる。

 

「んー、やっぱりアンナはいいな、と思って。」

 

その言葉に一瞬、目を丸くしたが、すぐに目線を落とし、「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。」と、背を向けられた。

照れてる表情が手に取るように分かる。

隠しきれていない耳が、ほんのり赤く染まっていくのが愛しくて、愛しくて、オイラの胸には何かが込み上げてくる。

その衝動に任せて後ろから抱きしめ、唇を重ねた。

そして、また深く深く溶けていく。

まどろみの世界へと誘うように。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、先に帰るわね。」

「おぉ。」

 

翌日。

昨日言われた通り、病院に向かうため、アンナとは学校で別れた。

凛として歩いていく背中を少し口元を緩めて、見送った。

 

「あれ?アンナさん、帰っちゃったの?」

 

ふと気づくと、隣に立っていたまん太が呟いた。

「そうなんよ、今日は。」といって、病院へ寄ることを説明しながら、二人で家路につく。

春になったとはいえ、まだ少し肌寒い夕暮れ。

時折、身震いをしてしまう。

 

「だけど、アンナさんって、おっかない割りによく風邪ひいたりするよね。」

「んー・・・・アイツ、食が細いからかなー。食えっつっても、なかなか食わねぇし。栄養足りてないんじゃねぇか、少し心配だな。」

「ふーん・・・・・・じゃあ、葉くんが気をつけてあげないとね!なんたって、主夫なんだから!!」

 

少し意地悪そうに笑うまん太に、苦笑いをした。

 

 

「ただいまー。」

 

静かな玄関にオイラの声が響いた。

いつものサンダルを脱ぐと、その横にはアンナのローファー。

まん太と少し寄り道して帰った為、アンナの方が早く帰りついたようだ。

オイラは、一番に居間へと向かう。

いつもの席でアンナは、せんべえとお茶で寛いでいた。

オイラの気配に気づいたアンナは振り向くと、「おかえり。」と口を開き、また目線をテレビに戻す。

その横に腰を落として、アンナの顔を覗き込みながら、「なぁ、病院どうだったんだ?」と訊いた。

 

「・・・・別に。また薬もらってきただけよ。それより、あんた。帰って来るの遅いじゃないの。

 どうせ、まん太と道草食ってたんでしょ!早く夕飯の準備しなさいっ!!!」

 

アンナの顔を覗き込んだのがいけなかった。

ちょうどいい位置にあったオイラの頬は、思い切り抓られる。

「いだだだだだ!!!!」と声を上げてしまう程、強くて、頬を放されると、急いで台所へ向かった。

あー、本当、加減ってもんを知らねぇんだから、アンナは・・・・

トホホ、と肩を落とし、赤くなっているであろう、右頬をさすった。

 

台所に着くと、いつものエプロンを着て、食材を確かめる。

 

「何作るかなぁー・・・・」

 

冷蔵庫の中身とにらめっこしてると、ふと夕方のまん太との会話を思い出した。

・・・・・・そうだよな、オイラが気をつけてやらないと、いけねぇんだよな。

少ししか食べれなくても、栄養のあるものを。

 

今日の夕飯はいつもより豪勢になった。

それを見てアンナは、「もう怒ってないわよ。」と俯きながら呟くので、そういうつもりで作ったんじゃないんだけどな、

と思いながらも、「そっか、良かった。」と、笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

アンナはやっと完全に回復し、薬も切れた。

そんなある日。

授業も終わり、いつものように二人で帰ろうと、アンナの席までいったら、

 

「あたし、今日寄る所があるから。」

 

と、素っ気なく言われ、教室を後にされた。

こういう事はたまにあることだが・・・・・・・・・・なんだかなぁ。

ぽりぽりと、頭をかいていると、まん太が今日は塾が休みになったようで、一緒に帰ろう、と誘われた。

 

 

「そりゃ、君がまた逆鱗に触れる事でもしたんじゃないの?」

 

アンナがそそくさと帰ってしまった事を話すと、そう言われた。

「いや、最近はそんなことないぞ・・・・たぶん・・・」と、最後の方は口を濁すように言うと、ぷっと吹き出すように笑われる。

そして、軽く背中を叩かれて、オイラの歩く少し前に出たまん太は、後ろ向きに歩きながら、

 

「まぁ、早い所、原因をつきとめなよ。これから先もずっと、あの家で二人でやっていくんだからさ。」

 

夕日を背に言われて、その眩しさから目を細めつつも、頷いた。

 

 

がちゃ がちゃ

 

鍵のかかっている戸を開けて、「ただいま。」と、声を出す。

玄関にはアンナの靴はなく、居間に向かっても誰もいなかった。

『やっぱり、「おかえり。」の声は欲しいものだ。』

そう一人で頷いた。

 

 

数十分後。

戸の開く音が聞こえた。

夕飯の準備で手が放せないので、「おかえりー。」と、アンナに聞こえるように声を上げ、

ある程度区切りがつくと、アンナが寛いでいる居間に顔を出す。

 

「おー、遅かったな。どこ行ってたんだ?」

 

濡れた手をエプロンで拭いながら、テレビに視線を向けるアンナの隣に座る。

だが返答もなく、視線も別方向なので、やっぱり何か怒ってんじゃねぇのか、と心配になり、変な汗が流れた。

 

「あの・・・・・アンナさん・・・?オイラ、また何かしましたか・・・・・?」

 

引きつった笑いを見せると、不意に振り向かれ、いつもの凛としたあの瞳と向かい合う。

びっくりして、少し腰が引けたが、その視線は逸らせなくて、お互いの瞳にそれぞれが映り込んでいた。

 

 

「・・・・・・病院。」

 

「へ・・・?」

 

「病院に行ってたの。」

 

「・・・・・・は?なんで・・・・・・・・だって、お前もう風邪治ったって言ったじゃん。」

 

 

 

テレビはついたままだというのに、この部屋の音が遠退いていくような気がした。

 

 

 

「別の病気。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたし、死ぬんだって。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもと変わらない口調で呟かれた現実は、嘘だとしか言いようがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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